最近の事件を目にしてなぜかこの本を思い出した。

主人公の彼は断食をして自分のやせ加減を観客に触らせて、
それ以外はただ檻の中でほとんど閉じた両目で前をぼんやり見つめ、
時々唇を濡らすために小さなコップから水をすする。
見張りがいつも付き、断食芸人が食べ物を食べないように見張っている。
人から見ると残酷なのに彼にとっては
「
誰にもできないことをしているという誇り」があった。
人にできないことで観客の注目を浴びるということが彼にとって唯一の生きがいなのだ。
自分の存在が認められ、自己が世の中で在るという確信を得る唯一の方法なのだ。
ある日、観客が彼に飽きて興味を示さなくなった。
彼は観客が彼の断食を感心することだけを望んでいたのにだ。
もう彼の眼はかすみ、体はたってはいられないほどに弱っている。
しかし彼の眼は俺はもっと断食をしつづけるぞという固い確信を見せる。
ついに彼の檻の中に一匹の豹が入れられ、
彼の要望通り観客がくぎ付けになるという話だ。
どんな世の中でも自分の存在が他人から認められる欲求があるのは当然だ。
カフカは人間の持ついろいろな欲求を切り捨てて
最後に残る欲求が人に認めてもらうということなのだと言っているのではないか。
誰でも社会から無視されては生きていけない。
今の世の中、人の存在や価値を認め合うということがどんなに欠如しているのか。
それが人間が社会生活をする上で一番必要なことなんだと思う。
そう死ぬまで・・・・
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